スーパーのバイヤーが農家さんになった話
私がWWG(ワンダフルワールドグリーン)を初めて29年目に入りますが、その間に知り合ったスーパーのバイヤーで、現在、農家さんをされているMさんがいらっしゃいます.親が農家をされていたのではなく、仕事を通じて農業に興味をもたれ、まずは仕事での疑問点や知りたい事があることから家庭菜園から取り組まれました.最初から相談を受けていた私は、農薬を使わず(または、最小限の使用で)、美味しい野菜の作り方のヒントを伝えた所、まじめで熱心なMさんはあっという間に回りの農家さんより甘くて美味しい野菜を作られるようになりました.
ちょうどそのころはバブルがはじけ、不況が忍び寄ってきた時期です.あちらこちらで希望退職者を募る企業が出てきました.スーパー業界も同様、希望退職者の募集が始まったと聞いていましたが、Mさんは我々業者だけでなく、上役や下の社員にも、農家さんにも慕われて彼がいなければ青果部門は始まらないとされていた存在でしたので、Mさんには関係のない話だと思っていました.それが、なんと、Mさんが希望退職に募集するつもりだと、そして、農業を始めると言われるではありませんか.Mさんから相談を受けたとき私は留意してくださいと頼みました.仕事上はもちろんでしたが趣味で農業をする事と、本業として農業をする事のギャップを考えるとMさんの将来が心配だったのです.ですが、農業への夢と希望に燃えた一途なMさんは希望退職者に支払われる増額退職金でしばらくはやって行けるし、そのうち農業での収入も増えるだろうと希望退職に応募されました.
その後の付き合いもずっと続けてきた私は、Mさんがどれほど苦労されたかつぶさに見てきました.買う立場だった頃は品質、味を重視して農家さんにもそう指導してきたMさんは、自身の出荷する茄子や胡瓜の箱の見えにくい下の段に優版をまぎれさせ、秀版のはんこを押すなんて事は絶対ありませんでした.収穫した量の半分も出荷できないと畑を訪れた私に茄子や胡瓜を手みやげとして手渡してくれながら苦笑いをしていました。
元スーパーのバイヤーが農業をしている.数年してあるテレビ局の某有名番組が取材をMさんに申し込まれました.Mさんは農業を気楽に考えては行けない。本当に大変なんだという事を皆さんに伝えたい.と考えて取材を受ける事にしました.数日の取材を終え、後日の某有名番組のオンエアーを見てびっくりされました。農業の厳しさ、たいへんさを訴えた部分はすべてカットされ、農業に対する夢の部分だけが強調された編成に変えて放映されたのです。
年末、久しぶりに会ったMさん。たくましく日焼けされてやっとこの頃農業の未来について再度語られるようになったと話の内容で私は感じました。Mさん。農家さんになりましたね。